The Big Moneyの正体が薄っすらと。
「U.S.A」の第1巻である「北緯42度線」に登場する人物たちは故郷のミドルタウンを後にして自立生活を始める・・・。
ふと思ったのですが、この小説もそうですが、アメリカの小説を読んでいると登場人物の生活感を出すために「このころになると彼の給料は週15$から25$になっていた。」というような表現に出くわすことがあります。
時間的経過と人物の成長を端的に表わす手法だと思うのですが、日本ではあまり見かけないですよね、こういうの。「彼女の時給はまだ900円だった。」・・・見ないなぁ。
すみません。いきなり余談でした。
2番をこんな風で・・・
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大金は世界を駆け巡る
巡航して(1)
強大な航跡を残し
打ち傷を残す(2)
大金は無数の夢を作り出し
デカイ取引を紡ぎ出し(3)
お偉方を生み出して(4)
有力者たちを紡ぎ出す(5)
時として、いくつもの虚構を作り出し(6)
時として、城を打ち壊す
時として、君に階段を設え
君を地下に閉じ込める
それこそが原始の宗教(7)
それが彼らが統治するだろう王国
それはテレビに映る愚者
愚かに演じることで対価を得る
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(1)cruiseはのんびりと渡り歩くとか漫遊するという意味です。お金自体は「意思無く対流している」という感じだと思うんですね。(この感じは詩の背骨だと思います。)
3行目の航跡とセットになっているので上記のように訳しました。
cruiseと(2)bruiseという絶妙な韻で連なりますが、大金は音も立てずに世間を流れて足跡と痛い傷跡を残していく、そんな感じです。
bruiseは打痕とか打ち痣といったニュアンスです。人々をへこまし、傷つけても行くと皮肉を込めて綴られています。
続くバースも韻がふんだんに盛り込まれていて気持ちいい。
言葉の配列もmakeとspinを交互に配してリズミカルであります。
(3)(5)のspinは「回す」という意味もありますが「生み出す」という意味もあります。「撚る」という意味から派生して何らかの素材から紡ぎ出す(撚糸)という使われ方をします。
ここでは後者の意味で捉えてみました。実際には大金が動くから「取引がされる」「有力者を生む」という(だんだんとBig Moneyの正体・・・)、人の動機がからんでいるという裏が見えます。
続くバースの比喩がとても秀逸で、しかも1番のpush/pullと同じ構成でNeil師匠のこだわりが伝わってきます。奇数行がよく(美味しく)見える点、偶数行が悪く(不味く)見える点になっているのですね、1番同様。
(6)ivory towers 訳では直接意訳を記してしまいましたが、直訳すれば「大理石の群塔」ということになります。
19世紀のフランス詩人であり批評家だったSainte Beuve(サント・ブーヴ)氏が使ったと言われている比喩で、「非現実的」とか「浮世離れした」とか「現を抜かす」というニュアンスです。
tower(s)と複数になっていることにご留意。説明は省きます。
次の行で「城を破壊する」となっています。
この2行の秀逸なところは2種類の建造物を使用して大金の凸凹な影響を描いている点です。
ivory towersは華やかな幻影であり、castleは現実の(あるいは歴史的)文化の象徴として使っていると思うのですね。
つまり、Big Moneyは目を引く偶像を造り出し、良き過去を破壊していくということだと思います。過去というと語弊があるかもしれませんね、既存の文化、自然といったことでしょうか。
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(3/6追記)
続く2行も「階段を与え(何がし便宜を施し)、投獄しもする(拘束する)」というように善し悪しな部分が詠われています。
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(7)old time religionですが使う場面によって若干の意味が異なるようですが、一般的にはアニミズム(万物には「霊」が宿っているという精霊思考)を指すようです。
Neil師匠のそれは、その原始よりも少し後のidolatry(偶像崇拝)と権力が結びついた頃のことだろうと感じます。前記のivory towersを受けてですね。
ただ、いい言葉が無いので私的に偶像という言葉を使いましたが、ここでの偶像というのは宗教的な信仰対象としての偶像ということではなく、権威を誇示するための建造物、造営物一般という意味で捉えてください。エジプトのピラミッド・・・あの感じです。財と人心を集める権力者が現れると、どこの文化圏でも大造営主義に走ったのは歴史の事実であります。
つまり、「古の昔から人間は財を集中させ力(ちから)を具現させてきたではないか。それこそは昔からある宗教なのさ。」という拝金主義者の言い分として綴っていると・・・
そして、広範に人心を集め、結果的に財を集めるためにテレビで踊っている愚か者達・・・皮肉満載。