FreewillやNatural Science で詠われていたリアルな悲劇がここにある。
明日は広島に原爆が投下された日であります。
マンハッタン計画と呼ばれた原爆開発に関する情報については
以下のレポート邦訳が素晴らしいのでご参考にどうぞ。
http://www.ne.jp/asahi/hayashi/love/manh1.htm
かなり歌詞の内容を補完できる内容です。
GUPに続く作品としてのPower Windows にて本曲が創出されていることに
RUSHの来日が関与しているのだとしたら嬉しい限りです。
歌詞中に日本をイメージした比喩も出てきます。
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Shot down the rising sun
出ずる太陽を射落とした
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ここですね・・・
さて、今回は怒られるのを覚悟で全文いっときます。被災者の鎮魂と平和への願いを込めて。
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Imagine a time
When it all began in the dying days of a war
A weapon -- that would settle the score
Whoever found it first
Would be sure to do their worst --
They always had before...
「或る時」を思い浮かべてみよう
それは或る戦争が終わろうとしている時に全てが始まった
恨みを晴らすことができるだろう「或る兵器」
誰がそれを見つけ出そうが
きっと最悪に振舞うに違いなかっただろう
過去ずっとそうだったのだから
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ここでの「或る時」とはマンハッタン計画が始まった瞬間を指しています。
当時、疲弊した日本は降伏の条件についてアメリカと協議をしていた大戦末期であります。原爆投下が日本降伏に必要であったかどうかについては現在否定的な見解が多く、戦後極東(対ロシア)を牽制する意味の方が強ったと言われています。
「誰が最初に製造しようが」という件は、本プロジェクトの裏にドイツが核兵器製造を進めているという情報があり(アインシュタインがもたらしたと言われています)、アメリカはやっきになってプロジェクトを推進したという経緯について触れています。所謂、開発競争ですね。
新しい兵器はいつの時代も最悪の惨事を招いてきたと節が結ばれる。
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Imagine a man
Where it all began a scientist pacing the floor
In each nation -- always eager to explore
To build the best big stick
To turn the winning trick --
But this was something more...
或る男を思い浮かべてみよう
ここから全てが始まった 不安げに歩き回る科学者
どの国においても 未知なるもの切り開くに執心する
最良の棍棒を作るために
勝利のコツをひっくり返すために
しかし これはそれ以上のものであった
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核開発各国は当時の科学技術を結集してやっきになって開発しようとした。その現場末端にはある意味「純粋」に原子の世界を切り開こうとする科学者達の姿がそこにあったわけです。その後、どうなるかも分らずに。
pace the floor 不安げにウロウロ歩く という成句です。
big stick とはセオドア・ルーズベルトの有名なセリフに触れています。
(何だか、形が色々あってどれが彼の本当の発言なのか分らないのですが、多分これも亜流にシンプル化されたものでしょう)
Speak softly and carry a big stick「棍棒片手に猫なで声」
当時の棍棒とは「軍事力」を指していたことは言うまでもありません。物騒なポリシーであります。
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The big bang -- took and shook the world
Shot down the rising sun
The end was begun -- it would hit everyone
When the chain reaction was done
The big shots -- try to hold it back
Fools try to wish it away
The hopeful depend on a world without end
Whatever the hopeless may say
核爆発は 世界を奪い揺るがし
出ずる太陽を射落とした
終末が始められた それは全ての人を撃つだろう
ひとたび連鎖反応が為されれば
有力者達は 懸命に秘匿する
愚か者たちが それの放棄を望もうとするだろうから
前途有る者は終焉など無い世界を信じている
希望無い者が何を言おうが
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原爆開発の目処が立ったアメリカにおいては、その凄まじい破壊力によって原爆は最終兵器としての認識が当時からあった。作ったものの使用すべきかという議論も当然あった。しかしトップシークレットとしての本プロジェクトは極秘裏に製造そして使用にまで至るのであります。歌詞中の言葉は、あまりの破壊力によって関係者も畏怖するものの、後戻りせずに秘匿したまま推進する政府の姿勢に言及しています。
3番でも同様に、極秘作戦の様相が描かれています。
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Imagine a place
Where it all began
They gathered from across the land
To work in the secrecy of the desert sand
All of the brightest boys
To play with the biggest toys --
More than they bargained for...
或る場所を思い描いてみよう
そこから全ては始まった
彼らは国を超え集まった
砂漠の中で極秘任務に就くために
この輝かしい少年たち皆が
巨大な玩具で遊ぶために
しかしそれは彼らの予想を越えるものだったのだ
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科学者達は極秘任務で核爆発の研究を進めます。理論の実践化までは恐らく純粋な科学的研究の範囲であったのでしょう。
Neil師匠はその研究者達を「少年」と比喩し、研究対象を「おもちゃ」と揶揄します。なぜなら、この時点では日本で何万人もの人々を瞬時に、そして時間をかけて抹殺する兵器というビジョンが希薄であったはずですから。
(「最初の「チョン!」は最後の「ドカン!」など意識していない」)
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Imagine a man
When it all began
The pilot of "enola gay"
Flying out of the shockwave
On that august day
All the powers that be
And the course of history
Would be changed for evermore...
或る男を思い浮かべてみよう
その時すべてが始まった
エノラ・ゲイのパイロット
衝撃波圏外へ飛行した
8月のその日
存在する全ての強国と
歴史の進路が
永久に変えられてしまった・・・
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・・・どこかの瞬間、瞬間に人がいるのです・・・。
いたはずなのに・・・
コメント、TBありがとうございます。
本記事投稿した当日TBSだかの広島の特別番組を見たら、リンクを貼ったレポートの内容に沿っていてとても興味深かったです。
20年前にこの歌詞を創出したNeil Peart氏にも敬意を表します。内容がとても客観的な上、後年の解釈を達観していたのだなぁ、とさえ感じます。
TBS番組での筑紫哲也氏の締め括りもこの曲の伝えたいこと(連動した人間から生み出される全く別の価値観の恐怖と個々の局面では人間として抑制しうるはずであったということ)と同義でした。