それでいて隣人の語りのようにその声が遠くはないことだと思う。
もうだいぶ前に、歌詞の解釈に没頭するきっかけになった曲があります。
The Camera Eye
ニューヨークとロンドンを比較しつつ、振興と伝統の互いが持つ長短を独特な三元論的見地で綴った詩であると解釈しました。
その中で、green と gray という2つの色が古えの時代では区別無く1つの言葉で表現されていたことを、古い価値観の比喩として使っているのだろうと推察しました。
実は限りなく深読み的ではありますが、このファンが多い「The Camera Eye」がプレイされなくなったことについて、この比喩の解釈が的を得ているとするなら頷ける私的見解をもったのです、当時。
緑と灰色とはあるタイプの色盲の方が区別できない色の組み合わせであることも知ったからです。
Neil師匠が歌詞中、その2つを「色」とは表現せずに「光の特性」と修辞したことはそのことについて意図的に婉曲させたのではないだろうと思っています。あくまでも古語の特徴を師匠的な言い換えで表現したのであって、そのことは後から知ったのではないか・・・。
(ゲール語族に遺伝的にそのタイプの人が多かったのかはわかりません。)
故に配慮から封印されたのではないかと・・・
なぜ今更、そんなことを思い出したかというと、Snakes&Arrows のライナーを読んでジャケットデザインとインドのボードゲーム「蛇と矢(梯子)」のつながりは全くの偶然的なものであったというNeil師匠のコメントに漠然とした私的共感を覚えたからです。
師匠の表現は印象派的言葉のパッチワークであって華麗で好奇心を誘う仕掛けられた構図を持った「絵画」だと私は思っています。
(最近の歌詞が、もっとストレートでありながらベールの色が濃くなっている印象を受けます。)
一見、関係の無さそうな事象や言葉に、別の言葉や言葉の背景を織り込んですれ違う相似を持たせたり、言葉同士を共鳴共振させたりするわけです。
修辞学的な代弁者としてだけでなく、自らの想念を妙味にするプロットとして。
極希に表に出てくる詩の背景やプロットへの師匠の言及を見ていると「飲み屋の壁の落書き」的な言葉の摩訶不思議なエネルギーと共感性に鋭敏なんだろうと思う。そしてそれが知的な構えをもっていることもあれば、馬鹿げたコミックでもあるところが好きです。super sensitive。
・・・
先日、Snakes&Arrows の感想として「ジプシー」というキーワードを使ったわけですが、
それは旋律やアンサンブルといった音楽的なこともそうなのですが、フレーバーという言葉を使ったように「雰囲気が」といっていいのかもしれません。
所在を持たない流動する民としてありながら、神秘的で独特な文化と芸術を持つジプシーと、S&Aで実現したRUSHの音楽になにがし、Neil師匠的近似性を感じずにはいられなかったのです。
・・・
先日、古本屋にいって叩き売りコーナーでジプシー本を買ったんです。
面白くてザクザクと読み進めました。
!!!
ジプシーの起源というのは未だに謎のベールに包まれていてよくわからないのですが、
先達の或る研究者は、ふとしたことをきっかけに歴史を辿るヒントを見つけます。
(ジプシーという名前も曖昧な誤解が根付いてしまった呼称で、「エジプトから来た人々」という意味のEgypsian の頭音が取れてできたわけです。ジプシーは自身をロムと呼びます。)
ジプシーはロマニー語という独自の言語を持っています(しかもそれは文字を持たない。英語の気安い友人を指す「pal」はロマニー語を英語表記したものだったりします。)。
ジプシー解明を進めていた中世ヨーロッパの研究者たちは、不思議な彼らの言語に惹かれつつも聞き覚えも文字もないそれに頭を悩ませていた・・・
何をしゃべっているのだろう彼らは?
そしていったい、彼らはどこからやってきたのか?と。
ある時、インドからの留学生同士の母国語による雑談を聞いていた僧は彼らの会話がジプシーたちのそれと似ているという直感を覚えます。
そのヒントから、語学的見地に立ったとき、ジプシーたちの言語はインド・アーリア系のサンスクリットを基盤にしていることが明らかになっていくのです。
ジプシーはその流動性ゆえに、行った先々の国の言語を吸収しながら地域ごとに新たななロマニー語を育てていきます。生活指向だけでなく言葉にすら自由を持っている民族だといえるわけです。
師匠が偶然いきついた「蛇と矢(梯子)」というインド独特の寓意がつまったボードゲームに後発的に出会ったことと、S&Aの作品群を聴いて感じたジプシーの香りがインドに行き着いたことが妙に(不思議とか、奇妙とかではなく)自然なことのように思えた。
(通じているとかいうことではなくて、その偶然的到達が共通していることが。)
「精霊の声を聴く感性さえあれば誰でも詩人になれる。」/ニーチェ
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